海自イージス艦・漁船衝突事故 無罪判決に関する社説

「イージス艦衝突無罪判決 甘い立証、検察は反省を」

2011年5月12日 中国新聞
http://www.chugoku-np.co.jp/Syasetu/index.html

検察には予想外の「無罪」だったろう。2008年、海上自衛隊のイージス艦あたごが千葉県沖で漁船清徳丸と衝突し、漁船の親子が死亡した事故の裁判である。

09年、あたご側に主な原因があるとした二つの「結論」が既に出ていたからだ。
当直士官として業務上過失致死罪などに問われた3等海佐2人に無罪を言い渡した横浜地裁。危険を生じさせる航路を取ったのは漁船側で、あたご側には衝突回避の義務はなかったと結論付けた。

最大の争点となったのが漁船の航跡図だ。船が沈み、衛星利用測位システム(GPS)のデータが失われたため推定するしかない。

検察側は、仲間の船長の供述を最大の根拠とした。漁船がまっすぐ進み、あたご側に回避義務が生じるような航跡図を提出した。
これに対して弁護側は被告らの証言を基に「漁船が急に右に曲がった。それがなければ衝突は避けられた」と反論していた。

判決は「船長の証言を恣意(しい)的に用いている。航跡の特定方法に問題があった」と厳しく批判。検察の主張を全面的に退けた。
公判では船長が自らの供述調書の中身について「そんなことは言っていない」と述べたという。立証のほころびが露呈した以上、無罪は当然の判断だろう。
厚生労働省の文書偽造事件などで指弾されたのが検察の「結論ありき」の手法だった。同じことが繰り返されていたともいえる。

護衛艦の方に非があると主張してきた遺族には納得できない判決かもしれない。検察も控訴を検討するもようだ。ならば謙虚に反省し、客観的な証拠で真実を追う姿勢を求めたい。
裁判に先行した海難審判の裁決では「事故当時の監視にミスがあった」として、あたごの所属部隊に再発防止を勧告した。
さらに防衛省の事故調査委員会の最終報告書でも、当直士官の見張りや他の隊員との連携に問題があったとした。
それを受け、両被告を含む関係者38人が注意義務違反で停職などの処分を受けている。
なぜ判断が食い違ったのか。個人の刑事責任を追及するのが裁判だ。衝突の原因調査に主眼を置く海難審判などと異なる結論になってもおかしくない。

ただ今回の判決も両被告にミスがあったこと自体は認めている。有罪とはしなかったものの、事故を防ぐ万全の態勢だったと言っているわけではない。
この事故を含む不祥事を受け、海自は抜本的な改革を迫られてきた。艦船の運航についても見張りマニュアルの見直しなどが進められているという。
一方で、海外派遣の常態化などで任務がますます多様化し、現場の隊員の教育がなかなか追いつかないとも聞く。

東日本大震災への出動により、いま自衛隊への国民の期待が高まっている。そんな時だからこそ悲劇を忘れず、再発防止を図っていく姿勢が求められる。

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「あたご衝突無罪 ずさんだった検察立証」

2011年5月12日 毎日新聞
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20110512k0000m070139000c.html

海の事故は、当事者のどちらか一方に100%の責任を認定するのは一般的に難しい。

そうだとしても、「海の法廷」と言われる海難審判の結論と全く逆の認定をした横浜地裁判決はどう受け取るべきだろうか。

08年2月、海上自衛隊のイージス艦「あたご」と、漁船「清徳丸」が衝突し、2人の漁師が亡くなった事故で、横浜地裁は業務上過失致死罪などに問われた当直士官だった自衛官2人に無罪を言い渡した。
事故をめぐり、横浜地方海難審判所は09年1月、事故の主因を「あたご側の監視不十分」と認定した。
この裁決は確定し、所属する第3護衛隊に安全航行の指導徹底を求める勧告を初めて出した。

海の交通ルールでは、右側通行が原則だ。互いの船を横に見て近づく場合、「他の船を右に見る船は、他の船の進路を避ける」と海上衝突予防法に定められる。

審判の裁決は、事故の7分近く前、両船の距離が約4キロになった時点で、衝突の恐れがある「見合い関係」が生じ、清徳丸を右前に見ていたあたご側に衝突回避義務があったのに、怠ったと述べた。
ただし、清徳丸が警告信号を出さず、衝突を避ける協力動作をとらなかったことも一因とした。

一方、横浜地裁は、「見合い関係」の成立を否定した上で、事故1、2分前に清徳丸が2回右へ方向転換したことで衝突の危険が生まれたとして、清徳丸があたごを回避する義務があったと判断したのである。
地裁は、判断の前提として、検察側が主張する清徳丸の航跡の特定方法に疑問を投げかけた。立証しようとする航跡に沿うように、都合よく清徳丸後方にいた僚船船長らの証言を利用したというのだ。

清徳丸側に回避義務があったとする判決内容が妥当かは、議論を呼ぶところだ。ただし、航跡についての目撃証言が法廷で揺らぎ、海上保安官の取り調べメモ破棄も発覚するなど、検察側の立証に不適切な点があったことは否定できないだろう。
衝突をめぐって、防衛省は09年5月に公表した事故調査報告書で「不適切な見張り指揮や、当直員の連携不足が直接的要因」と断定し、38人を処分した。被告2人だけの責任でなく、日ごろの教育や訓練の不足も含め、複数の人為的ミスが重なり、事故は発生したとの認識だろう。
横浜地裁判決も、不十分な見張りや、誤った申し送りなど連携の不徹底は「事実」だと認定した。

海自の組織的な問題が事故の背景にあったとの構図が判決で揺らぐことはない。海自は安全航行をさらに徹底してもらいたい。



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産経新聞「産経抄」

2011年5月13日
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110513/dst11051303160006-n1.htm

すぐれたミステリーには、無実の登場人物の疑惑を強調したり、誤った手がかりを与えたりして、読者の目を真犯人からそらす仕掛けが、織り込まれている。これを英語で、「Red Herring」(赤ニシン)という。独特の匂いを放つ薫製ニシンのことだ。キツネ狩りの猟犬に獲物の匂いと嗅ぎ分けさせる、訓練に使われたという。

千葉県房総半島沖で平成20年2月、海上自衛隊のイージス艦と漁船が衝突し、漁師の父子が亡くなった。この事故で横浜地裁は先日、あたごの当直士官2人に無罪を言い渡した。事故の関係者は赤ニシンの匂いに惑わされたのではないか。判決は、そう問いかけているように思える。

匂いの正体はもちろん、自衛隊に吹きつけていたバッシングの嵐である。わずか7トンの漁船と、最新鋭の機器を備えた7750トンのイージス艦。大方のメディアは、事故発生当時から、前者を善、後者を悪と決めつけていた。それから1年半後に政権交代が実現し、やがて自衛隊を暴力装置と呼ぶ官房長官がお目見えする。

もっとも、元米国防総省日本部長のジム・アワーさんのところまで、匂いは届かなかったようだ。小紙への寄稿のなかで、自衛隊に対する感情的な議論をいさめた。なぜ操作のしやすい漁船の方が、進路をはずれようとしなかったのか、との疑問ももっともだった。

事故から約1年後に出た海難審判の裁決は、あたご側の見張り不十分が主因と結論づけていた。それとは正反対の判決を、直後の夕刊で各紙がともに1面トップで取り上げたのは当然だ。

ただ翌日の朝刊やテレビの報道では、くわしく分析した報道は見当たらない。さすがに、ばつが悪かったとみえる。

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一方、今回の判決が気に入らない相変わらずのマスコミさん社説も載せておきましょう。



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「イージス艦判決 海自の責任は消えない」

5月12日(木) 信濃毎日新聞
http://www.shinmai.co.jp/news/20110512/KT110511ETI090004000022.htm

海上自衛隊のイージス艦あたごと、漁船清徳丸が衝突した事故の裁判で、横浜地裁が、当時の当直士官2人に無罪を言い渡した。

事故で漁船の父子2人が犠牲になった。士官は無罪となったけれど、裁判長は監視が不十分だった点を認めた。海自の責任まで消えたわけではない。
海自、防衛省には、事故の背景といわれてきた組織の問題点にあらためて目を配り、再発防止を徹底するよう強く求める。

事故は2008年2月、千葉県沖で起きた。漁船の父子が行方不明になり、3カ月後に死亡認定された。漁船団の存在をつかんでいながら、直前まで自動操舵(そうだ)を続けるなど、あたごのずさんな運航が明らかになった。

横浜地方海難審判所が09年に下した裁決は明快だった。
あたごの監視態勢が不十分だったことが事故の主な原因と認め、安全指導の徹底を海自に勧告した。防衛省の事故調査委員会も同年、回避義務はあたごにあり、見張りが不適切だったとする最終報告をまとめている。

横浜地裁の判決は逆に、清徳丸が右転して衝突の危険が生じたのであって、あたごに回避義務はなかったとした。争点となった清徳丸の航跡について、裁判長は「検察が特定した航跡は正確さを欠き、特定方法に極めて問題があった」と指摘した。
公判での検察の立証にはほころびが目立ち、十分な検証を怠った感は否めない。

だが、事故の構図が今回の裁判で明らかになったとは言い難い。多くの漁船が行き来する沖合を通るイージス艦は、陸地に例えれば、自転車や歩行者の間を走る大型トラックのようなものだ。危険回避の責任はまず、海自にあると考えるのが自然だろう。

あたごの事故後も、海自の艦船と漁船や作業船との接触事故が続いている。千葉県沖の漁師は「事故直後は、漁船を意識的に避けていた海自の大型船が、最近は事故前と変わらない操舵をするようになった」と話している。

事故の背景に、海外派遣などの任務増大、訓練機会の減少、人員不足、規律の緩みなどがあると指摘されている。海自は、組織の問題点を洗い出し、引き続き改革を進める必要がある。
監視態勢の強化、船長や当直士官らへの指導徹底を図るのは当然だ。形式的な対策にとどめてはならない。上意下達ではなく、現場の要望や不満を踏まえて改善を図ることが大事になる。
by funesuki | 2011-05-12 21:51 | 海上自衛隊 | Comments(0)


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